淡路島サイクリング case by けんた

ちょっとした旅もいよいよ終わりがすぐそこに。私は国道171号線を北へ向かって自転車を走らせていた。迷子から復帰し、気持ちに余裕も出てきたことだ。ここからは今回の旅を振り返りながら漕いでいこう。

思い立ったのは秋と呼ぶにはまだ暑く、1度目の練習サイクリングを終えた頃。過去に一度、同じくスタッフだったタクミ君と計画を立てようとしたことはあったけど、残念ながら計画が立つ前に自然消滅してしまった。その計画は、長岡京市発、淡路島一周、長岡京市着というもの。前回は単独での計画だったけど、今回はつくしの本番にぶつけて楽をしようという魂胆だ。つくしといる間はちゃんとスタッフとして隊を引っ張るし、トラックに1台分の空きは出来るしということで迷惑はかからない・・・・はず。

やると決めてしまえばそこから早いのが私で、早速地図で距離の確認をする。まず長岡から明石港までが80キロ、そこから船で渡り、岩屋から洲本港までが32キロ。合計で110キロ強、つくしクラブの先発隊が洲本港に着くのが日付の変わる頃、昼過ぎに出てもゆっくり行って十分間に合う。2日目は小学生と一緒に60キロ。これはいつも通り3日目も小学生と一緒に45キロ走り、そのあと昼頃に明石で別れて行きしなと同じく80キロ。まぁ行けるでしょ!と、なんとも軽い気持ちで計画を立てた。心はウキウキである。

自転車にサイドバッグを取り付け、いよいよ出発となり気が付いた。このサイドバッグ、めっぽう重い。いつも入っているカメラはもちろん重く、それに加えて夕食用に水と鍋とバーナーカートリッジ。結果から考えると夕食セットは先発隊に持ってきてもらっても問題はなかった。ついつい重装備化してしまうのは昔からの悪い癖だ。

気を取り直して出発。予報では夜から雨だったので、出来ればそれまでに着きたい。しかし荷物が重い(全く気を取り直せていない)。171号線(以下「171(イナイチ)」)をずっと走るのは嫌だったので、まずは西国街道を走る。予定では箕面手前に出る予定だったけど、事前に地図を確認した時の予想通りどこを走っているのか分からなくなり、もう少し手前の高槻駅近く、直角カーブの辺りに出た。仕方ないので171を走る。箕面を越えたあたりで最初の休憩。持ってきたお菓子とコンビニで買ったコーラで燃料補給。

再び171を走る。途中、お店のマスコットキャラ的なウサギの着ぐるみを着た人に応援され、会釈で返す。ふと上を見上げると大きな飛行機、伊丹空港に差し掛かった。急ぎたかったけどこればかりは仕方ない。休憩したばかりだけど自転車を降り、カメラを取り出して20分ほど滞在して写真を撮る。やはりB787は美しいなと橋の上でみとれていた。

171を走り続けて2号線にぶつかると、日は落ちて辺りは暗くなり始めていた。街並みも少しずつ変わり、オシャレな街神戸に近づいているのを感じていた。このあたりから少し疲れを感じ始めていて、華やかになる街の様子とは対照的に気持ちは沈む。ダメだダメだと言い聞かせ頑張って漕いでいたけど、釣り具を持ってゆっくり漕ぐおっちゃんに信号の度に追いつかれてさらに嫌になる。

そんな気持ちでクルクルとペダルを回していると、突如視界が開けた。このルートでこれだけ海沿いを走る所は1つしかない。須磨だ。イマイチつかめていなかった明石との距離もなんとなく分かり、少し元気になった。もう少し漕ぐと待ちに待った明石海峡大橋も見え、さらに気持ちは楽に。明石海峡大橋を越えて5キロほど走ったところでようやく区切りの明石港、淡路ジェノバラインの発着所に着いた。結構疲れていて、どのくらいかというと券売機のお釣りを取り忘れるくらい。職員のおじさまが教えてくれて気付き、さらには自転車を支えている私を見てお釣りを取りに行ってくれた。なんと優しい。ホッと息をついて船に乗り込んだ。

船の中では雨雲レーダーを見ながら予定を考えていた。当初、渡った先で夕食をとる予定だったけど、どうやら予報通り雨が降りそうなので先を急ぐことに。明るい街だった神戸や明石に対して、淡路島はとてつもなく暗い。海岸沿いの道は車向けで街頭もまばら、道は広かったのでそこまでだったけど、横をとてつもないスピードで車が走り抜けていく。そして、洲本までの半分ほどを来たあたりで額にポツリ、ほっぺにポツリ、雨が降ってきた。出来ればカッパを出したくなかったのでギリギリまでねばっていたけど、いよいよ本降りになりそうだったので自転車をとめてカッパを着た。しかし、こういう時に良くある話で、カッパを着たとたんに雨が止んだ。もう脱ぐのも面倒だったのでそのまま漕ぎ、街の灯りが見える度に、あそこが洲本かと希望を持っては打ち砕かれということを繰り返し、ようやく洲本に着いたのは23時頃だった。先発隊の到着を待つ間に夕食を済ませ、到着後、色々手伝い、色々あって3時過ぎ頃に眠りについた。

翌朝、空は曇っていたけど雨は降っていなかった。疲労も思ったほどはなく、子どもたちが到着し、つくしの淡路島サイクリングが始まった。少し濡れた路面に注意しながら走っていると、狭い道でおそらくは単独であろう事故にあった人と救急車が見え、さらに気が引き締まる。

最初の峠、自分のチームの子どものスピードに驚かされる。自分のペースで行って良いよとは言ったものの、前を行く大人隊を軽々と抜き去り、自分も置いていかれてしまった。奈良への練習サイクリングでは坂が苦手な子だったのに、自転車が変わって坂が得意な子になっていました。そんなこんなで謎のパラダイスも通り過ぎ、最初のエイドステーションに到着。ここからは下り道、先ほどのことがあったのでゆっくり余裕を持って下った。下った先のモンキーパークでトイレ休憩を取り、昼食をとる小学校前の海岸へ、海岸沿いを気持ちよく進む。途中、明らかにおかしな位置におかしな角度で泊まっているクレーン船を目撃。座礁しているよね。

昼食後はすぐに峠があるが、傾斜こそきついものの距離がとても短いので意外と楽に越えることが出来る。そこからは再び下って、健脚コースとの分かれ道。昼食前のモンキーパークでは、全体的に遅れていたため全チーム健脚コースは諦めようかという話も出ていたのだけど、昼食休憩を早めに切り上げたこともあり健脚コースに行けることに。正直なところ私も健脚コースが良かったので内心ホッとする。

健脚コースは山の上にあるホテルニュー淡路プラザ淡路島を通る峠道。長さや傾斜のきつさで言うと恐らく最初の峠の方が厳しいのだけど、ここまで漕いできてからの峠道ということで、疲労が重なりなかなかにしんどい・・・はずだったのだけど、子どもたちはやはり元気で、私を置いてどんどん登って行ってしまった。ホテル前の展望台からは鳴門海峡にかかる大鳴門橋が綺麗に見えて、淡路島の南端、実際はそうではないのだけど、なんとなくそう実感する。展望台からは下り、といきたいところだけど、残念ながら何度か登り下りを繰り返して最後の下りに入る。

下り終えると南あわじの市外へ入り、2カ所目のエイドステーションを経てキャンプ場へ。最後の最後までやはり元気な子どもたち。キャンプ場に着くと走り回っていた。

保護者の作ってくれる美味しいごはんにあたたかいお風呂、それにたぶんお酒、これはつくしのサイクリングとセットでなければ味わえない。琵琶湖一周は日帰り(日はまたぐことが多いけど)出来るのでそのあたりの心配が少ないけど、淡路島に関しては合計距離が長いので私の脚では日帰りは厳しい。しかしよく考えてみると長岡から淡路島一周して帰ってくるまでで300キロ弱、琵琶湖の場合は250キロ強なのでもうちょっと脚を鍛えれば不可能ではないのかもしれない。話は戻って、お風呂、食事、食後のケイドロを済ませて、お酒を少し頂き、外でシュラフに入って眠りにつく。

朝、明るい光がまぶたを通して目に入り、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえていたような気がするけど、気にすることなく眠る。少しでも寝ておきたい。起きた時には朝ごはんを食べ始めようかというところだった。朝食をとり、荷物を撤収して出発。良い天気だ。

天気も良いので気持ちよく走れそう、なんて思っていた。しかしその気持ちは出発直後にボロボロと崩れ去った。いや、吹き飛んだ。とてつもない向かい風で、少しでも漕ぐのをやめると止まってしまいそうだった。ヒーヒー言いながら自転車を漕ぎ続け(比喩ではなく本当に言っていたと思う)、今日唯一のエイドステーションへ。後ろとの差を少し埋めるためゆったり休憩し、再び向かい風へ向かって走り出す。結局最後まで風が止むことはなく、明石海峡大橋をくぐってから岩屋までの数分は追い風の中を走ることができ、驚くほど自転車が素直に進んだ。

船を待っている間に昼食を済ませて、子どもたちと一緒に明石海峡を渡り、明石港で別れた。帰路の目標は往路より速くだったけど、今思えば往路でかかった時間をはっきり覚えていなかった。

先ほどまでの向かい風のせいか、体が軽く、とても良いペースで走ることが出来た。このまま行けば日が落ちる前に帰れるんじゃないか、なんてことも思ったりしていた。しかし、須磨を越えたあたり、唐突に脚が重くなる。ペースを上げることができず、少しの上り坂でも脚が悲鳴をあげた。大幅にペースを落とし、コンビニで休憩。そこからも怠さは抜けず、さらに眠気にも襲われ、信号待ちで居眠りをして渡り損ねたので、これはイカンと、オシャレな街神戸のオシャレな公園でベンチを借りて昼寝をした。15分ほどの昼寝だったけど、眠気に関しては完全に抜けた。怠さは残っていたが、なんとか漕いで久しぶりの171に出た。

171に入って少し経って、武庫川に出たところで問題が発生する。橋に歩道がなかったのだ。しかし、今考えてみれば行きしなはその橋を渡っていたはずなので、正確に言うと歩道に出る道を見つけられなかった、というところ。そこから進路を北に逸れ、阪神競馬場の前にあるセブンイレブンで休憩をし、今後を考える。川を渡ったら南に進路をとって171に戻るか、それでは距離がかさんでしまうのでなんとなく方向を意識して走り、最終的に171と合流するか、私は後者を選んだ。

しかし、気楽に考えていたものの、早々に自分の位置を見失い、挙げ句に住宅街に迷い込み、精神的に大きなダメージを負いペースダウンした。沈みゆく太陽と伊丹空港から離陸してくる飛行機を頼りに、なんとか方向を見定めて走る。正しい方向に向かっていることは分かっているはずなのに、頭の中では家との距離が少しも縮まらない。いつになったら着くのだろう、脚が重い、ネガティブな気持ちしか生まれてこなかった。そんな時、見たことある風景に出会った。

目の前の交差点にはこう書いてあった。「箕面市役所前」箕面は姉が住んでいるので何度も来たことがあるし、一度自転車でも来たことがあった。頭の中で伊丹空港の近くをウロチョロしていた現在地が一気に箕面までワープし、足枷が外れたかのように体が軽くなった。あとは171を北進するだけ。気持ちが楽になった。

おっと、振り返りが終わってしまった。しかしもう大山崎だ。結局箕面からここまで休憩なしで来てしまった。漕ぎながら考える、やはり自転車は凄い。漕げば漕ぐだけ遠くに連れて行ってくれる。足で走っても同じ事が言えるけど、やはり効率が段違い。それに自転車には惰性で進むという大きな武器がある。下り坂は漕がずとも進めるのだから素晴らしい。私は決してスピードが速い方ではなく、遅くてもただただ漕ぎ続けるというスタイル。今回もまさしくその通りで、時間はかかったけどこうしてゴールに近づいている。

そんなことを考えているうちに家に着いた。旅はこれでおしまい。以前、しまなみ海道を通って四国に渡り、淡路島を通って帰ってくるなんてことを思いついたこともあったけど、今回のしんどさを考えると想像したくもない。でもお金と時間に余裕のある時期がもし訪れたならやってみたい。

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